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第19回
食うべきか 食わざるべきか それが薬草・毒草だ
3.アセビ
 ツツジ科の植物には、美しい花を咲かせる種類が多い。そしてその美しさの上に、さらに強力な毒性を隠し持つものといえば、それは太古から有名なアセビと、もう一種レンゲツツジということになろう。 ツツジ科ではさらにもう一種、寒地の山野に生育するハナヒリノキというのがあるが、これはアセビやレンゲツツジに比べると、花は地味で毒性もわざわざ乾燥させた葉の粉末が鼻粘膜に張りついて初めて、 猛烈にクシャミを連発させるといういたずらっぽい樹木なので、さほど問題とはならない(昔は茎葉をウジ殺しなどに使ったのでやはり食ってはならないのだが)。

 さて本題のアセビであるが、じつはこの「馬酔木」の葉っぱを死ぬほど大量に食った牛馬の例というものは、ある本では「実際にある」と断言されているが、他の本では「馬をはじめ、家畜がこれらの植物を食べることなど滅多にない。 もしあるとしたら、干し草に誤ってまぎれた時や、まだ生まれて間もない家畜や、迷子になって餌を見つけられず、飢え死に寸前といった非常事態のときだけ」とはっきり切り捨てられていて、私もどう紹介したものか大いに悩んでいる。 植物毒というものは「微量で薬、多すぎて毒」となるものが非常に多いのであるが、このアセビの場合は微量・適量で薬となる成分は多分全く無い。それであの有名な奈良の公園の神鹿たちも、 他の樹木や草はたちまちむさぼり食ってしまうのに、アセビだけはいたずら食いにも食おうとはしないのである。従ってこれまでアセビで死んだという鹿は剥製でも野ざらしでも紹介されたことはないのではないだろうか。 馬にしろ鹿にしろ、彼らは決して「馬鹿」なことはしないのである。

 ただしこれまでに確かな例としては、アメリカで二百頭中二十頭の羊が牧草地でアセビを食って、その二十頭は大量のよだれを流し、激しい下痢と嘔吐をくり返し、ついにその内の二頭が哀れ絶命したと、数冊の本で紹介されている。 あとはドイツの動物園でヌートリアが餌を待ちきれないでアセビの葉を食ってしまい、アメリカの羊と同じような症状になったが、量が少なかったので三時間で元に戻ったとある。

 さて、話しを馬や羊やヌートリアから人間に戻すと、やはり人間でもこのアセビの花や葉を食って「足廃痺(あししび)」になった人というのは聞いたことがない。中にはいたずらに花の一花・二花を食う人もいることはいるが、 普通の人はわざわざ食うことはしない。しかしそれでも本当に運の悪い人は、なんとハナヒリノキの花か、このアセビの花が蜜源となった蜂蜜によって、突然よだれが流れ始め、下痢も起こり、人によっては嘔吐さえ繰り返す症状に陥ることがあるそうだ。 その時皮膚に鳥肌どころではないサボテンのトゲのごとき粟立ちを見たら、もうそれはハナヒリノキかアセボの毒によるものに間違いない。まず死ぬほど一度に蜂蜜を食らう人もいないと思うが、 ごく稀な人間の被害例として、こんなことも832分の1の確率でありうるということを覚えておいてほしい(832とはハチ、ミ、ツーのしゃれです。本気にしてはいけません)。ついでに自然農薬としてこのアセビの茎葉をグツグツ煮出した汁液は、それは強力である(長野県の一部ではこれを毒矢として使用)。 化学薬品に頼らない人は、春はツクシとこのアセビとチューリップで、夏はアサガオ、スギナ、オミナエシ、秋はサルビア、コスモス、ヒガンバナで、それぞれ旬の「三種混合自然農薬」を作っているが、これに念を入れてタバコのニコチンをぶち込むと、この世のものとは思えぬ超々ハードな毒薬が完成する。 さすがにこれはどれほど泥酔していたとしても、間違っても飲むことはできないが、もしこれをコップでごっくんとやったなら、もうたちまち七転八倒、お陀仏確実トリカブトといったところだろう。さすがの私もちょっと試しに一なめなんてアセビ心の一かけらも湧いてこないほどのシロモノである。

 アセビはそれゆえに奈良の公園に植えられている。同じく鹿に草木を食われてしまう宮城県の金華山は、アセビではなくやはり毒成分があるメギで対抗している。群馬県の赤城山の牧場は、牛に食われないのでレンゲツツジだけが毎年見事に咲いている。どれもひとたび食えばれっきとした毒樹なのである。

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